キーワードは、「百年の安堵」と「空のチーム」
航空業界の基本的な考え方の一つに、「人は誰でもエラーを起こす可能性がある」というものがあります。どんなに技術を高めてもヒューマンエラーを完全になくすことは難しいという認識のもと、個人のエラーをチーム全体でカバーし、エラーの連鎖をチームで断ち切る仕組みが重要だと航空業界は考えています。
自然災害の発生も完全に防ぐことは難しいため、災害は起きるという前提に立ち、被害をいかに軽減させるかを目的とする「減災の考え方」は、「エラーは起こる」という前提に立ったマネジメントを行う航空業界との親和性がとても高いと感じ、私自身の客室乗務員としての経験がお役に立てるのではないかと考えました。
自然災害の発生率が高い日本において、減災の取り組みは欠かすことはできません。災害は起きるという前提のもと、被害をいかに軽減させるかを見据えた仕組みづくりや人財共育を行うには、「空のチーム」の姿が参考になるはずです。
私たちは、
①「百世の安堵」×「空のチーム」の新しい防災の形を構築
② どのような事態が発生したときでも「行動できる人財」を共育
③「公助」の運用を改善し、被災者の QOL 向上に貢献するために「一般社団法人 空飛ぶ防災協会」を設立し、多くの人との共創を通じて、より良い未来の構築に向けて歩みを進めて参ります
2025 年 11月5日
藤岡 裕美子
大切にしたい「稲むらの火」という逸話
1854 年(安政元年)11 月 5 日に和歌山県で起きた大津波の際に、村人が自ら収穫した稲むらに火をつけて早期に警報を発することで避難を促し、多くの村民の命を救った「稲むらの火」の逸話は、11 月 5 日を国連総会で「世界津波の日」として制定した理由にも挙げられた誇りあるものです。
津波により大きな被害を受けた村民たちは、将来に再び襲来する津波から村を守るべく、長さ600m、高さ 5mの防波堤の築造にも取り組み、後の津波による被害を最小限に抑える備えをしました。このときに作られた堤防は、1946 年(昭和 21 年)に起こった昭和南海地震の影響による津波から実際に村を津波から守り、現在までその姿を残しています。稲むらの火の逸話には、村全体を「チーム」として捉え、100 年先を見据えた「百世の安堵」の考え方が多数詰まっており、これからの防災・減災の大きな参考になるものと考えています。
全員がチームメンバーという発想
「空のチーム」は、航空機を安全に目的地まで運航するために協力する「空のスペシャリスト達」だけで構成されているのではありません。実は、航空機を利用されるお客様も大切なチームメンバーの一員です。
2024 年 1 月 2 日に羽田空港で発生した海上保安庁機と JAL 機の事故で、JAL 機に搭乗していた 379 名のすべての乗員・乗客の皆さんが無事に脱出できたのは、JAL 乗務員の適切な状況認識と意思決定があったことは、運輸安全委員会の経過報告書からも明らかですが、それだけではあの「奇跡」は生まれなかったと、私は考えています。
事故が発生した機内で、乗務員とお客様とが「チーム」になることができたらからこそ、あの「奇跡」は生まれたと思うのです。
そして、お客様を「チーム」の一員として機能させることに成功したのは、キャビンアテンダントが持つ「ノンテクニカルスキル」です。
ノンテクニカルスキルとは、状況認識や意思決定、コミュニケーションやチームビルディングといった見ることも触ることもできないスキルです。
キャビンアテンダントは、決まったチームで動いているのではなく、フライトごとに異なるチームが編成されるため、「はじめまして」の人ともすぐにチームになる必要あります。そこで、個々のノンテクニカルスキルを活用して、初対面の人とも「チーム」になるのです。
また、キャビンアテンダントがお客様と「チーム」になるのは、緊急事態のときだけではありません。通常運航の時でも、キャビンアテンダントはノンテクニカルスキルを活用して、お客様に「チームの一員」となっていただけるように行動しています。
キャビンアテンダントとして「空のチーム」に関わってきた私の経験は、どのような事態が発生したときでも「行動できる人財」を共育する際に貢献できると考えています。
