航空機が離陸してから着陸するまでには、多くの専門家が関わっています。パイロットやキャビンアテンダントはもちろん、保安検査官、グランドスタッフ、航空整備士、機内清掃スタッフ、手荷物係、給油担当、ケータリング、そして上空を見守る航空管制官などなど……
それぞれが異なる専門性を持ちながら、たった一つの目的のために完璧に連携します。
その目的とは「安全」です。それぞれが高度な専門性を持ち、役割を果たしながら、世界規模で協力しているのです。
航空業界は、非常に高い安全性を目指して継続的に努力を重ねています。国際的な取り組みにより、航空機の安全性は年々向上しており、統計上では「世界で最も安全な乗り物」と言われるまでになりました。
この安全性向上の中心にあるのが、「チームで飛ばす」という考え方です。個々の専門性を高めるだけでなく、チーム全体のパフォーマンスを向上させることで、より高い安全性と効率性を実現しているのです。
この「チームで飛ばす」理論を、「チーム・リソース・マネジメント(TRM)」と航空業界では呼んでいます。
TRM は、国連の専門機関である国際民間航空機関が国際法にも定められており、世界共通の価値観となっています。世界の空は1つにつながっているので、同じ価値観で航空機を飛ばす必要があるためです。
このような航空機の運航をチーム全体で支える考え方は、他の運輸業はもとより、医療現場、製造業、IT 企業など、あらゆる業界で同じ原理が応用できると考えています。なぜなら、どんな業界でも「人」が働き、「チーム」で成果を出すという本質は変わらないからです。
この考え方は、防災・減災の現場にもきっとお役に立てると考えています。

航空業界が、「チームで飛ばす」ことの重要性に気づいたのは、1970 年代に米国航空宇宙局(NASA)が行った過去の航空事故の分析がきっかけでした。それまでは、航空機の安全性を高めるためには、個々のパイロットの操縦技術を向上させる(テクニカルスキルを磨く)ことが唯一の方法だと考えられていました。
しかし、NASA の研究から、状況認識、意思決定、コミュニケーション、チームビルディングといった「ノンテクニカルスキル」を磨き、「チームで飛ばす」ことが、空の安全性を高めるために必要不可欠ということが、わかったのです。
航空業界は、それから 50 年以上にわたって、テクニカルスキルとノンテクニカルスキルの2つのスキルを磨き、空の安全性を高めてきました。

2024 年 1 月 2 日に羽田空港で発生した事故では、JAL 機に搭乗していた 379 名の乗員・乗客の全員を救えたことを、「奇跡」と海外メディアが賞賛しました。
運輸安全委員会の経過報告書の中では、「非常脱出において重大な人的被害が発生しなかったことに関与した可能性がある事項」として、次の 13 項目をあげています。
(1) 客室内で、脱出行動に支障を来す機体構造の損壊が発生しなかったこと
(2) 衝突後、機体が転覆することなく草地で停止したこと
(3) 衝突による衝撃で、重篤な負傷者が発生しなかったこと
(4) 客室乗務員から機長Bに対し、機体停止直後に火災発生の報告が行われたこと
(5) L2、L3、R2、R3及びR4を非常脱出に使用しなかったこと
(6) 大半の乗客が、傾斜が緩やかだったL1及びR1から脱出したこと
(7) 脱出スライドの傾斜が急だったL4の客室乗務員が、非常脱出の際、「座って滑って」と乗客に指示していたこと
(8) 衝突で発生した機体の火災が客室内に延焼するまでの時間が、約10分あったこと
(9) 客室乗務員の指示により、乗客が脱出のために通路や出口に殺到する状況が発生(継続)しなかったこと
(10) 機内放送等が使用できない状況で、機長B及び先任客室乗務員が機内を移動しながら非常脱出を指示したこと
(11) 乗組員が機内残留乗客の探索を行い、自席付近に留まっていた乗客の脱出を促したこと
(12) 非常脱出中、脱出に使用したL1、R1及びL4スライドの着地点周辺に火災が延焼しなかったこと
(13) B機の乗組員は、事故発生前1年以内に運航会社が行う定期救難訓練を受講し、非常脱出に関する訓練を受けていたこと


このどれもが欠けていても、「奇跡の脱出」は実現しなかったと考えられますが、設立する一般社団法人の目指す姿のヒントとなるのが、(5),(7),(9),(10),(13)の5項目です。
特に重要と思われる箇所を、マーカーで示しました。

(5) L2、L3、R2、R3及びR4を非常脱出に使用しなかったこと
(7) 脱出スライドの傾斜が急だったL4の客室乗務員が、非常脱出の際、「座って滑って」と乗客に指示していたこと
(9) 客室乗務員の指示により、乗客が脱出のために通路や出口に殺到する状況が発生(継続)しなかったこと
(10) 機内放送等が使用できない状況で、機長B及び先任客室乗務員が機内を移動しながら非常脱出を指示したこと
(13) B機の乗組員は、事故発生前1年以内に運航会社が行う定期救難訓練を受講し、非常脱出に関する訓練を受けていたこと

運輸安全委員会の経過報告書が明かにした「非常脱出において重大な人的被害が発生しなかったことに関与した可能性がある事項」を読み解くと、そこには空の世界が大切にしている価値観である「自ら考え、自ら決断すること(自考自決)」が深く関与していたことが見えてきます。
この「自考自決」ができるようになるために、様々な訓練で準備をし、現場での経験を通じて、その精度を高めているのが、航空業界です。
そして、「想定外が起こることを想定する」のも、航空業界の特徴です。
災害が発生した際には、「事前に準備したことだけ」では対応できないこともあり得ます。そのような時にでも、「行動できる人」を育成することは、私たちが目指す法人の姿です。
この時に参考になるのが、航空業界が大切にしてきた「チーム・リソース・マネジメント(TRM)」だと考えています。